間もなく終了!Japan Societyの猫いっぱいの浮世絵展「お江戸猫めぐり」で日本の良さを改めて実感

今日はNYCのJapan Societyで開催されている、猫の浮世絵展のことについて。

この展覧会は3月より開催されており、私もLLAMAとずいぶん前に行ったので今更の更新内容ですが...
会期も終了間近ですし、
ロックランドブロガー仲間のkawamukoさんからの宿題を、やはり今更提出すべく、ポストします。

ただ今開催中のこの展示会の会期は6月7日(日)まで。
まもなく終了してしまう展示会です。気になる方はぜひお急ぎください♪



Life of Cats: Selections from the Hiraki Ukiyo-e Collection お江戸猫めぐり(邦題)を見に、はじめてマンハッタンのJapan Societyに行きました。

ビルの中はモダンな旅館のロビーのような、久々に見る和風の素敵なインテリアでした。



ギャラリー入口傍に設置された、猫モチーフで撮れるプリクラマシーンに続き、、、

猫をデザインした大きなパネルが出迎えるスペース"Cats and People"(猫と人)コーナーから始まり、

後に続く各セクション、
"Cats as People"(人になった猫)、"Cats vs People"(猫vs人)、"Cats Transformed"(変身した猫)、そして"Cats and Play"(猫と遊び)※邦題はハフィントンポスト日本版参照

の5部構成になった展覧会です。

日本の平木浮世絵美術館所蔵からの浮世絵90点(17~19世紀:江戸時代の作品が中心)に併せ、その他絵画や彫刻作品など、合計120点の猫アートが前期/後期の2期に渡り、入れ替わり展示されています。



美術を見て感じることは各個人それぞれだと思いますが、、、

今回の猫をたくさん描いた浮世絵の展覧会で、私は日本&日本人の気質や良いところを改めて感じさせられたのでした。。。



私が訪れた頃はまだ前期だったので、
ここにポストする写真の作品と展示の様子は今(後期)と異なるかと思いますが、
それぞれ添付しながら各セクションを追って紹介していこうと思います。


まず初めの"Cats and People"「猫と人」セクションでは、古来からの日常生活の中での猫と人の関係を描いた浮世絵作品が並びます。
6世紀、大陸からの仏教の伝来とともにやってきた猫は、ペットとして身近な動物になっていたのだそうです。
歌川広重
吉原の遊郭の猫。「オイラとも遊んでよ・・・」と、外に出かけてしまったご主人(遊女)を、ちょっとすね気味に背中を丸め窓から眺めている猫。


歌川国芳
猫好きとして有名だった歌川国芳は、多くの猫作品を残しているのだそうです。かつお節の盗人を謀る猫...でも見つかっちゃう。サザエさんの歌い出しのようなシーンです。


歌川国貞
かんざしのデザインにちょこんと乗っかった猫のかわいらしさもさることながら... 
展示テキストによると、昼→夜営業に変わる時折、ウエイトレスがお店の看板(行燈)に火を灯しているシーンを描いているそうで、ライトのあたる明るい部分と陰になった部分を作り、版画の色分けで光を表しているのが素敵だな...と思いました♪


次のコーナー"Cats as People"「人になった猫」への入り口もこんな演出。
カラフルに猫シルエットを模って、ギャラリーがポップでフレンドリーな印象です♪
もともと首輪でつながれていた飼い猫達が江戸時代には放し飼いにされるようになり、街にはネズミ採りの役目も果たしていた猫達がたくさんあふれていたそうです。

ここでは擬人化された猫の姿を描く浮世絵が並びます。
音楽・踊り・芸能の華やかな文化で栄える江戸の街を描くのに、猫は欠かせないキャラクターになったのですね。

歌川広重
いま風で言うとストリートパフォーマー。大道芸の乱杭渡りをする猫達。猫なので杭はかつお節♪
大衆向けの「俗っぽい」出版物として成り立った浮世絵と思えば納得のいく、浮世絵師のユーモアを感じますね♪


歌川芳幾
江戸で人気の歌舞伎のポスター。役者の顔が猫なのは、幕府から「役者の顔の描写はしてはいけない」という禁止令がでていたため。そこで猫の顔が取って代わって描かれたのです。
「どうするよ、顔描いちゃダメなんだってさ。じゃー、しょうがない。こいつ(猫)の顔でも描いとくか。」
ってかんじでしょうか。
いずれにしても、人間の代用に猫、とは猫の身近さを感じさせられます。



歌川国芳
こちらも歌舞伎のワンシーンを描いたもの。やっぱり特定の顔は描けないので猫サマで。

このような幕府のcensor(検閲)のもと認可され出版された猫の浮世絵は、巷では「ネズミを脅すのに効果がある絵」として好まれ、庶民の生活の一部になったようです。



そんな「訳に立つ身近な存在」だった反面、
「こっそり盗む」とか「こっそり壊す」といった、今も昔も変わらない猫の悪戯好きなキャラクターは、ときに人間にとっての『トラブルメーカー』とも思われていたようです。

ギャラリーのまんなかに吊るされたスクリーンに、障子越しの妖怪を思わせるような猫シルエットが映し出されていたこのスペースは"Cats vs People"「猫vs人」のコーナーです。

五雲亭貞秀
化け猫の証拠、行燈の油をペロリと舐める様子が映っています。しかしその傍ら、ほっかむりで踊る猫がやっぱりコミカルで愛らしくてなりません♪


歌川国芳
西洋の宗教画などでよく見るパネルが3つ連なった絵画のスタイルはtriptych(トリプティク)と言います。浮世絵師達も版画紙を3つ連ね、横長なパノラマビューを作りだしています。ミステリアス&恐ろしい、そんな化け猫画をさらにダイナミックにしています。




続く"Cats Transformed"「変身した猫」のコーナーでは、時代の流れと共に移り変わる猫の描写が紹介されています。
ここでは浮世絵だけでなく、掛け軸絵画や猫の置物も展示されています。

江戸時代には南蛮貿易や中国との貿易により、外国製品が手に入るようになっていました。
江戸の画家達もそんな外国製品の恩恵より、もともと日本には存在しない「虎」さえも、貿易で届いた虎の毛皮を見ながら描写し作品に残していたそうです。

しかし、そんな制作に於いても、虎を描くためのモデルはそこにいる『猫』を使っていたのだとか。
アナトミーモデルは猫、表面テクスチャーは虎の毛皮、というかんじでしょうか。

なので、、、
虎だけど、瞳孔がタテ長型。これは猫特有の瞳孔の形です。虎は小さな丸型。

日本には存在しない本物の虎をモデルにできない画家たちが描いた... 猫モデルの虎。
今度から虎の絵を見る時には瞳孔の形をチェックせずにはいられません。。。


虎のモデルだった猫も、やがて...そのもの『猫』である姿をリアルに描かれるようになってきたのは江戸時代の終わりから、明治時代の頃。
鎖国が終わりどんどん流入してきた外国文化と共に届いた、西洋画の「リアリズム(写実主義)」の影響です。
この影響はその後の大正時代へも続きます。
三木翠山
毛並の雰囲気がまるで本物。モノクロの掛け軸画ですが、気まぐれに動き出しそうなリアルさです。


庭山耕園
お城の天守閣や古い日本家屋などでよく見る、杉戸絵(杉素材の扉に絵が描かれている)の猫です。ポーズとふわっとした毛並の質感が写実的です。


こうして、ちょんまげを切り落としたアタマを叩けば文明開化の音がしていた頃、
日本の版画・絵画は西洋の新しいスタイルをフレキシブルに&呑みこみよく取り入れていったのです。

余談:
同じ頃...19世紀中後半、時代に名を連ねるパリの画家たち(マネ、モネ、セザンヌ、ゴッホ、ルノアール、ドガetc)は、ジャポニズムの真っ盛り!
いま私達が見る、名画と呼ばれる彼らの作品は、江戸からパリへ届いた日本の浮世絵より多大な影響を受けて生まれた作品なのです。
奥行がなく単色塗りのフラットな描写、ジグザグな構図、写実的ではなく単純化された浮世絵は、パリの画家たちの興味の的だったのです。
美術だけを見ても、文化は行ったり来たり...おもしろいですね♪


そしてじきに、新しい浮世絵のムーブメントも登場しました。 
高橋弘明
明治から昭和へかけての同時代に興った「新版画」というジャンルからの一作品。人の描写は浮世絵のような昔ながらの雰囲気を残しつつ、ビビッドな赤、漆黒、淡い肌色の強いコントラストでインパクトのある浮世絵スタイルです。
色っぽいヌード女性と戯れる、羨ましい役回りはもちろん猫♪




そして展覧会は"Cats and Play"「猫と遊び」のコーナーで締めくくられます。

このセクションでは、再び江戸に返り、、、庶民向け出版物として存在した浮世絵が、子供のおもちゃとして、又は学習ツールとして使われていた例が並びます。
猫が主役の展示ですから、このコーナーも猫ずくし♪

もともと大量生産で安く出回った版画の浮世絵。作者が誰か分からないもの、美術館には並ばないようなものも展示されています。

そんな人気ものの猫が描かれた浮世絵は低価格で売られていたため、子供がお父さんお母さんに「これ買って~」とねだってお小遣い程度で手に入り、子供の躾や学習にちょうどよい教材となっていたのだそうです。

歌川国芳
再び登場、猫好き歌川国芳の作品は、猫達が「なまず」の文字に並んだもの。教材云々抜きにしても、これはこれでとても洒落た浮世絵だと思います♪


小林清親
「礼も過ぎれば無礼になる」という諺と意味を説明する作品。手前の男性と同じ頭を下げてオシリを上げるポーズの猫に注目♪


歌川芳藤
「おもちゃ絵」と呼ばれる浮世絵。着せ替え人形としてプリントされています。子供たちはこれを切って、左右対照にプリントされた人形部分を張り合わせ表/裏とも柄が見えるように組み立て、普段着からフォーマルまでのバリエーションで用意された衣装も切り取り着せ替えて遊んでいたのだそうです。人形のモデルはもちろん猫♪セクシーなS字モデルポーズ☆
そのような使われ方から、切り刻まれたものがほとんどで、この展示品のような切られる前の状態で残っているのはとてもレアなのだそうです。



歌川芳藤
そんな楽しい子供用の「おもちゃ絵」も、大事な学習教材の役目を果たしていたのです。日常生活の様々な場面を猫で楽しく描いたこの作品は、通りにやってくる売り子さんから食品を買う事、家事の様子など、子供に絵で見せることで例を示し学習させていたのだそうです。
版画とは思えないほどたくさんの細かい描写がされていて、オトナの私達が見ても飽きない、楽しい作品です♪

アーティスト(浮世絵師)がこんなふうに積極的に子供向け教材となる作品を作っていた、というのも興味深い一面の発見になりました。


この最後のコーナーには、猫の写真集(日本で見たことあるものも!)や漫画本などがソファ&テーブルと共に設置され、ここでしばしこれらを楽しむことができます。
「ご自由にお持ち帰りください」
展示のものと同じ着せ替え猫の浮世絵のコピーや、白黒パージョンになって塗り絵ができるシートも。
おもちゃ絵の並ぶこの最後のコーナーは、訪れた人達もインタラクティブに遊べるような空間になっています。



と、、、こんなふうに、その名の通り様々な表情の猫達で埋め尽くされた浮世絵展は、
テーマごとに分かれた展示やギャラリーのフレンドリー&ポップな空間づくりで、猫好き&浮世絵ファンならずとも楽しめる展覧会です。


私としては、、、

・外国からやってきた猫をすっかり生活の一員にとりいれた様子、
・文明開化の大きな転機に、伝統を守りつつフレキシブルにしかも迅速に文化的適応を遂げたところ、
・ペリーも驚かせたという当時の日本人の識字率や浮世絵師の貢献などから見える国民の勤勉さ、
・その後更に新しいスタイルも追及する様子、
・安い大量生産物の浮世絵でも手を抜かない、ハイクオリティ&新デザインを追及する浮世絵師の姿勢、
・現代の漫画にも通ずる、コミカルなユーモア&遊び心のある表現

そんな日本の良き気質&文化を、この「お江戸猫めぐり」を通して存分に見ることができたと思います。





猫いっぱいの浮世絵展
Life of Cats: Selections from the Hiraki Ukiyo-e Collection お江戸猫めぐり
NYCの Japan Society にて6月7日(日)まで開催中です。




会期終了までに時間をつくって、「後期展示」を見に再度Japan Societyに行ってみようかな♪



心を込めて綴ります
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コメント

  1. WASABIさん、ありがとうございます!^^
    「宿題」なんて、とんでもない・・・^^; 
    WASABIさんのレビューを読んで、あの絵、そういう意味だったのか!(笑)と、
    また勉強になりました。

    構成に気を配ってらっしゃるところが、さすがですねー。
    私なんか絵しか見てませんでしたが(笑)、構成があるからこそ、私みたいな素人も、無意識のうちに楽しめるんですね。
    改めてWASABIさんの説明で写真を見ると、ポップな赤い猫型の入り口と、パープルな壁の色が、「人になった猫」にぴったりだなぁ・・と思いました。

    ところで後期の展示、先週見てきましたが、ずっと見たかった歌川国貞の源氏物語の 柏木が見られて満足です。やっぱり、生は違いますねー^^




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    返信
    1. kawamukoさん、ありがとうございます!
      これは適当にはできないなと思い真面目にやりました!(笑)
      できるだけ分かりやすく且つ情報もりだくさんを心掛けたつもりなので、みなさんが展覧会を見るお役にたてば幸い、と思っています♪
      kawamukoさんはアートやシアターや...色々な事に興味がおありでいらっしゃるから、私もkawamukoさんのポストを読んでいつも勉強になっています!

      この猫浮世絵展、もうすぐ終わってしまうのが残念。我が家も再度、後期展示を見にいってみようとLLAMAと話しています♪

      削除
  2. WASABIさん、だいぶん前の記事なのに今更コメント失礼します。
    この、記事は5月にちゃんと読んでたんだけど、いつか絶対コメントするんじゃけと、・・・今になっちゃった。
    もうかれこれ、半年以上美術館に行けてなくて(mini Meが出て来た為)、色んな展示のCMを観ては、行きたいなぁと、眺める日々。
    ふと、いつもの様にWASABIさんのブログを覗いていると、この記事!引き込まれたよ。
    まるで、美術館の心地いい静寂の中で作品を見ているみたいに、美術館に行ってるように感じた。すごいね、分かり易いし、楽しかったっ。し、癒された。
    そして、なんと近々広島でも浮世絵展があるんよ、歌川国芳展。これ、前から楽しみにしとって、そろそろ美術館に行ってやるぞと、はりきってます。

    他の記事もとっても興味深く見とるよー、もちろん日々の出来事も♪
    これからも楽しみにしとります♪

    返信削除
    返信
    1. meatさん、コメントありがとうございます!
      そして、mini Meおめでとうございます♪

      このポストで展示会の様子が少しでもお伝えできて楽しんでいただけたようでよかったです :-)
      私もこうして投稿するのに展示作品の説明を読んだり、入門ほどですが自分でリサーチしてみて浮世絵についての色んなことを知りました。
      作者について、またその時代のことなど、作品を通じて様々な事を知られるのは美術鑑賞の楽しみの一つでもありますね♪
      そしておっしゃるように、あのギャラリーの静かな空間で、作品と向かい合える時間は本当に心地よいですよね。
      広島でも浮世絵展が開催されるとのこと...さっきググッて県立美術館の情報をみつけました!ここに書いた猫の浮世絵だけでなく、ユーモアあふれる歌川国芳の作品がたくさん見られそうで楽しみですね♪ぜひ広島での展示も楽しんでください!
      懐かしい広島弁フレーズのコメントでとても励みになりました♪
      マイペースでやってるブログですが(笑)またこれからもお付き合いいただけると幸いです♪

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